最高裁「社員の申告なくとも精神疾患、会社に配慮義務」

日経の記事の紹介

会社員が過重労働で鬱病になった場合、過去の精神科通院歴などを会社側に申告していなかったことが社員側の過失に当たるかが争点で、東芝と元社員が争った。

メンタルヘルスは申告がなくても(会社側に)安全配慮義務がある」と判断し、過失相殺などを理由に損害額の2割を減額した二審判決を破棄、審理を東京高裁に差し戻した。
 47歳の東芝の元社員が「解雇無効」と「損害賠償」を求めて提訴し、解雇無効は二審で確定。
 東芝側は
(1)精神科への通院歴などを申告しなかったため、会社側が鬱病の発症回避などの対応を取れなかった
(2)業務を離れても鬱病が完治せず、もともと当該社員固有の問題があった――などと主張。
社員側の過失を理由に損害額を減額できるか、過失相殺が争点だった。
 裁判では、当時の業務について「負担は相当過重だった」とした上で、
通院歴や病名について「プライバシーに関わり人事考課にも影響しうる情報で、通常は知られずに働き続けようとする」と指摘。
 会社側について「労働者からの申告がなくても、労働環境などに十分な注意を払うべき安全配慮義務を負う」と判断。
当該社員が体調不良を上司に伝え、1週間以上の欠勤を繰り返していたことから「(会社側は)過重な業務と認識しうる状況だった」とした。
 鬱病が完治しない状況についても「通常想定される以上の脆弱性があったとは言えない」と認定。賠償額を約690万円と算定した二審判決を破棄し、計算し直すため高裁に差し戻した。
 判決によると、当該社員は大学卒業後に東芝に入社し、工場で液晶生産ラインの開発などを担当。
プロジェクトリーダーを務めていたが、2001年4月に鬱病と診断され休職。前年に神経症との診断を受けたが、会社には伝えていなかった。会社は04年9月、休職後に職場復帰しなかったとして解雇した。

<以上の記事ついてコメント>

メンタルの疾患は会社に隠すことも多い。おそらく私が産業医として相談を受け把握しているのはごく一部なのだろうと思う。
というのは未だメンタル疾患への偏見や差別もあるため、人事考課を考慮すれば隠す社員の気持ちもよくわかる。
今回の判決では、このような背景を鑑み、病気かどうか会社が知らずとも適切な安全配慮義務を負うということになった。
病気かどうか、でなく、社員の状況を見ながら、適切な負荷をかけるように会社は配慮しないといけないということ。
つまり、よく言われる「先生、この人病気ですか」という疾病性の有無の問いより、
「この人は現在この状況、体調でこのレベルの負荷をかけても安全か」という事例性の問題が大切だということが示されたのだ。
病気かどうかわからずとも、会社側としては配慮していかないと大きな落とし穴があるかもしれないということ。
最近は人事の方はよく勉強してメンタルの扱いに慣れてきていらっしゃるが、実際に社員を管理している現場管理監督者は今回の点をよく承知していかないといけないし、このような知識をラインケア研修などで会社は補っていく必要があることを痛感した。