成人の聴覚障害とうつ病が関連あり

 企業における障害者雇用が広がってきており、身体障害者精神障害者ともに雇用枠が増えています。
その中で最近気になっているのが、身体障害者についてもメンタル不調者が一般の社員に比べ多いことです。
「身体障害とメンタルは関係ないのでは」と人事の方々は仰るのですが、
「障害を持っていること=通常業務をこなすための負担は心身ともに大きい」
と考えた方が自然です。
実際に、腕が不自由な方が、他の人と同様のライン作業についておられ、片手で繰り返し作業することにより健常側の腕を痛めたという身体的負担増大の例もあります。
また、聴覚障害の方が、耳鳴りなどの随伴症状により欠勤しがちになり、それにより周囲との人間関係が悪くなり心理的負担が増大し休職するという例もあります。
そこで、今日は今年3月に発表された論文を紹介します。
聴覚障害はうつのリスクを高めるというものです。
JAMA Otolaryngology–Head & Neck Surgery(2014年3月6日オンライン版)より
https://archotol.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1835392
以下、論文のabstract等の和訳をします。

 高所得国における成人の障害生存年数の原因として単極性うつ病性障害は1位,成人発症の聴力障害は2位を占め,うつ病聴覚障害は個人的・社会的・経済的負担と関連している。
米National Institute on Deafness and Other Communication DisordersのChuan-Ming Li氏らが,米国保健栄養調査(NHANES)2005〜10のデータを用いて聴覚障害の成人においてうつ病の有病率と危険因子を検討。

結果:
中等度から重度の抑うつ症状の発生率は、
聴こえの状態が非常に良好と申告した群 4・9%
良好と申告した群 7.1%
軽度または重度聴覚障害群 11.4%だった。

聴こえの状態が非常に良好と申告した群を基準とした場合に、すべての共変数を調整した後の多変量オッズ比は、
聴覚良好群 1.4(95%CI,1.1−1.8)
軽度聴覚障害群 1.7 (1.3-2.2)
中等度聴覚障害群  2.4 (1.7-3.2)
重度聴覚障害群 1.5 (0.9-2.6)
聾  2.4 (1.7-3.2)  だった。

結論:
70歳以上の高齢女性において、年齢、性別、人種・民族、生活習慣、健康状態などについて調整後、
中等度聴覚障害群とうつ病が有意な関連を示した(OR, 3.9; 95% CI, 1.3-11.3)。

以上から、米国の成人では聴覚障害視覚障害や糖尿病、がん、心血管疾患など他の身体障害を調整してもなお、うつ病と関連しており、特に女性において顕著であり、
その上で、医療従事者は聴覚障害をもつ成人におけるうつ病のリスクが高いことを認識しておく必要があると結論付けている。