睡眠教育:夜更かしへの警鐘

産業医面談の際に必ず「睡眠時間」を質問します。
さらに、「いつ寝たか」、つまり就寝時刻、起床時刻も重要だとわかってきています。
私が担当させている職場にはIT企業がいくつかありますが、この分野の技術者は、いわゆるSEの方々は、PCを見続けて仕事をしている上、夜中まで及ぶ業務が多いのです。
睡眠時刻がずれていくと、睡眠覚醒リズム障害を生じます。
特に、IT企業に多いのは、睡眠・覚醒の時間帯が遅くなってしまうことによる睡眠障害睡眠相後退症候群」です。
朝日が昇って「さあ働こう」という頃に体温も血圧も下がっていて
「やる気が出ない」「集中できない」「思うように身体が動かない」ということになっているもの。
このような症状は「うつ状態」と診断されることが多いのですが、よく聞いてみると、もとはと言えば「睡眠リズム」が原因のことが多いのです。
よく見かけるパターンは、仕事でPC作業が長く続いた上に、残業で日付が変わる時間まで作業をし、
帰宅後気晴らしにネットサーフィンやスマホのゲームに浸っている。そのうちに3時、4時になってしまうというもの。
遅くまで仕事をしていればその後に気晴らしをしたいのは人間として当たり前のことです。
ただ、そこで夜更かしをし、さらに、そのときにネットやスマホを見るのは健康にこの上良くないことが様々な研究からわかっています。
取り返しのつかない睡眠障害、そして生活習慣病などのリスクが高くなります。
だから、夜更かしの方、特に20代のゲーム、ネット好きの方には、厳しく指導しています。
実際に困っている従業員や患者さんには「睡眠覚醒リズム表」をつけていただきます。
何時頃、寝ているか、そしてその眠りの質について日々、表に記入していただき、
産業医、主治医として共有するのですが、これは治療、指導の際に大変参考になります。
困ったことが一つ。
睡眠障害なら、睡眠薬で治す、というのが普通の発想ですが、このような睡眠障害に通常の睡眠薬は効きにくいのです。
これは精神科の分野で常識となっています。
では、どうするのでしょうか。
睡眠覚醒リズムは、脳の松果体から分泌されるメラトニンというホルモンが関わっていますが、
このホルモンは日本では市販されていません。
アメリカでは、有名なABCストアにもサプリ感覚で販売されています。
しかし、最近は、メラトニン受容体MT1/MT2に作用して睡眠へ導入する新しいタイプの睡眠導入剤ラメルテオンがあります。
通常の睡眠薬より、効き目はマイルドですが、副作用は少なく睡眠覚醒リズム障害の方には向いています。
商品名はロゼレム(ローズ、レムという意味だと武田薬品工業談)。
睡眠覚醒リズム障害で従来の睡眠薬が効かない人は専門医に相談する価値はあるでしょう。
しかし、とにかく予防に勝る治療はないのです。
夜更かしについての、健康知識の普及、行動変容が早急に必要な会社は数多いので人事担当者、経営者は真剣に考えたほうがいいかと思います。