海外派遣者の健康支援:途上国編

昨夜は、日本EAP協会のセミナーに参加しました。
産業医として中小企業から大企業に至る様々な企業でお仕事をさせていただいておりますが、
現在海外出張はもちろんのこと海外赴任がごく当たり前のことになっています。
そこで感じるのは、「国際派」とされる海外に行きたくてたまらない人だけでなく、
「ごく普通の社員」までもが海外赴任をする時代になっているといるということです。
実際に、学生時代に留学をしていたとか、語学が好きとか全く関係ない社員が海外に行き、
メンタル不調を訴えるケースも続出しています。
渡航先や、その人の立場も関係しているでしょう。
私が小さい頃、海外赴任と言えば、一流企業から欧米に派遣されて海外生活を送るというリッチなイメージがありました。
しかし、現在の海外赴任は行き先も時代とともに変遷を遂げ、アジア地域への赴任が増えています。
衛生状況、治安、インフラの不備など生活上の問題とともに、
出張が多い、日本の本社からの要求度が高い上に現地の職員の仕事の進みが遅い、など仕事上の問題も多いのです。
特に、面談で良く耳にするのは「あんなに現地で苦労しているのに日本の上司から慰労の言葉一つない」
というセリフです。
昨日のセミナーでも同様の話が出ていました。
私自身は海外経験というのは、ラオスに少々とパリに数年ですが、
それぞれの国で、もちろんストレス状況は異なります。
アジアの衛生状態の悪い国では、まずは感染症に気をつけなければなりません。
渡航前は私自身は良く勧めるのは、東京医科大学病院渡航外来です。
また東京都新宿区戸山の国際医療センターも同様の外来があるそうです。
このような専門外来では、必要に応じてその場で予防接種が受けられるので便利でしょう。
もちろん在庫状況にもよりますが、破傷風は小児科ならあるでしょうけど、
狂犬病などのワクチンの在庫は普通のクリニックにはありませんから。
少し自身の経験を書いてみます。
私が行ったラオスでは、蚊を媒介としてヒトに感染するデング熱が流行しているため、虫よけスプレーと蚊帳が必要でした。
対策はマラリアと同じです。
私の前任者のオーストラリア人がデング熱にかかったとのことで特に気をつけました。
虫よけスプレーは日本で入手できるものは弱いそうで、現地や欧米のものを勧められました。
また、ラオスの首都ビエンチャンから地方に出張の際も、
常に大きなネットの四隅に紐がついているという簡単な作りの蚊帳を持参しました。
私の場合は短期間で、20代後半でしたから、むしろ環境の違いを楽しむ余裕がありましたが、現在行ったらかなりきついでしょう。
ある地方に車で行ったときのこと。
途中の露店でコーヒーを飲んで休んでいたら、そこにJICAの日本人技術者がいたのです。
ラオスで初めて会った日本人でした。
「JICAはWHOに比べていいホテルに泊まる」という噂があったので、行き先の町のホテル情報を入手したのです。
「○○ホテルは202号室に冷房がある」と。
そこで、保健省のカウンターパートの人にそのホテルを予約していただきました。
心の中で満足したのもつかの間、数時間後、その町に着いたときに、カウンターパートと現地の人が何かいろいろ話しているのです。
気になって聞いてみると、その町は停電になったとのこと。
3日間の滞在ですが、一度停電すると復旧には2週間ほどかかるとのことでした。
よって、3日間、冷房どころではなく、シャワーもなく(水道水は電力がないと出ないとその時初めて知りました)、
ポタポタと蛇口から落ちる一滴一滴をバケツに入れておき、
夜までに2つほどバケツに水がたまるとそれを大切に利用して汗を流しました。
また、ラオスのビールは日本のビールに近くてとてもおいしいのですが、冷たいビールもお預けに・・。
余談ですが、何となくベランダを水をまいて流すのは抵抗感があります。
きれいな水がもったいない・・なんていう意識がどこかに染みついたのでしょう。
このような生活はバックパッカーならまだしも、普通の日本人が、特に最近は海外旅行や留学したがらない学生が多いとのことですが
このような日本人が、海外赴任!なんてことになったときに、いかにストレスが大きいか、想像しやすいでしょう。
そこで、健康支援が必要になるのです。
ただ、ほとんどの会社では支援ができてません。
渡航前に法定の健診は実施しているものの、それ以外の健康管理までは手が届かないことが多いのです。
参考までに、労働安全衛生規則第45条の2を最後に示しておきます。

では、EAPや産業保健が何ができるのか。
私は知りませんでしたが、巡回健診があるとのことです。
ある会社のためにではなく、地域にいる日本からの赴任者に対して健診をするそうです。
メンタル対応については、日本から対応した場合、むしろ「日本にいて何がわかるんだ!!」という気になるとも言われてます。
ただ、私の経験では、とにかく日本語が話したい、というときがありました。
そんなとき電話で話ができたらどんなに楽だったでしょう。
特にラオスでは、仕事がない日が一番つらかった記憶があります。
ある日曜日の午後、かなり孤独感にさいなまれているときに突然ホテルに連絡があり、夕方から地方に向かう、とのこと。
ホッとしました。
海外赴任者のメンタルの問題は、私はこの数年特に気にしていたテーマです。
現地の日本人の資源を利用するのもおすすめです。

異国でこころを病んだとき―在外メンタルヘルスの現場から: 鈴木 満:
本.
www.amazon.co.jp/--/dp/433565152XAmazon.co.jp:
この本には主要都市の日本人が利用できるメンタルヘルスの資源について書かれています。
参考にしてもいいでしょう。

追記:
偶然ですが、本日9月7日TBS報道特集にて、温暖化でデング熱が日本に上陸する可能性を特集していました。


労働安全衛生規則
(海外派遣労働者の健康診断)
第四十五条の二  事業者は、労働者を本邦外の地域に六月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、当該労働者に対し、第四十四条第一項各号に掲げる項目及び厚生労働大臣が定める項目のうち医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
2  事業者は、本邦外の地域に六月以上派遣した労働者を本邦の地域内における業務に就かせるとき(一時的に就かせるときを除く。)は、当該労働者に対し、第四十四条第一項各号に掲げる項目及び厚生労働大臣が定める項目のうち医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
3  第一項の健康診断は、第四十三条、第四十四条、前条又は法第六十六条第二項 前段の健康診断を受けた者(第四十三条第一項ただし書に規定する書面を提出した者を含む。)については、当該健康診断の実施の日から六月間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができる。
4  第四十四条第二項の規定は、第一項及び第二項の健康診断について準用する。この場合において、同条第二項中「、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号」とあるのは、「及び第四号」と読み替えるものとする。