メンタルヘルス対策:個人情報と社員への健康配慮

メンタルヘルス対策推進上のネックとして「プライバシーの問題が絡んでいること」と答える企業が最も多い。(産業人メンタルヘルス白書より)
これは私たち医療者にとっては守秘義務があり、当たり前のこととして日常業務を進めているが、企業のように、もともと個人情報の取り扱いに敏感でなかった企業は個人情報保護法以後はかなりケアしているような印象を受けます。
メンタルヘルス疾患に対する偏見もあるため、高度なプライバシーだと言われています。
プライバシー権」というのは、法律上の記載はありませんが、
まず、「私生活をみだりに公開されない権利である」という考え方があります。
これは「宴のあと」事件第一審判決がとった立場で、個人の私的領域に他者を無断で立ち入らせないというものである。
それに対し、「自己情報を自由にコントロールする権利」という解釈もあります。
これは「情報コントロール権」としてプライバシー権を考えたものである。
これらは、憲法13条が新しい人権の具体的な根拠規定になるという判例の考え方によれば、憲法によって保障されていると解釈されます。
メンタル疾患に関する社員情報は「私生活」であり、「自己情報」であるため、
プライバシー権によって保護されているというわけです。
そのため、本人の同意なしに社員のメンタルヘルス情報を第三者に開示することは不法行為責任を追及される可能性があります。
さらに、個人情報保護法によっても、メンタルヘルス情報は保護されます。

では、ある社員がメンタル疾患で不調を訴え、会社として何らかの職務上の配慮(増悪防止措置)の義務を負うときはどうするべきか?
たとえば、主治医や産業医の診断で「時間短縮勤務を要する」という判断をした場合、上司や同僚の協力が不可欠になります。本人の同意が得られなかった場合、どうしたらいいのでしょうか。
プライバシー権や個人情報保護が、いかなるときも認められるのでしょうか。
そんなことはありません。
個人情報保護法では「人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難な場合」には本人の同意なしに個人情報を第三者に開示することができる、と規定してます。
しかし、上司や同僚はあくまでも第三者です。
そのような人に通知するときは、実に慎重にしなければならないのです。
「高度の必要性」が認められるときに「合理的な方法」によって、「必要最低限の範囲」に限って行うべきと考えられています。
つまり、通知が不可欠であり、さらに本人の同意を得る試みを十分行った上でも同意が得らない場合に必要最低限の情報を伝え、それを口外させないようにすることが必要なのです。
個人情報に関する意識は会社の風土・文化によって様々です。
ついうっかり悪気はなく、「みんなで支えようよ」という親心の意味で社員のメンタル情報を社内で流す、というのはよくあることです。
しかし、本人と会社の関係によっては法的な問題になりかねません。
これからは個人情報の扱いには気をつけましょう。