産業医は精神科医であるべきか

広島の日本精神神経学会総会に行ってきました。
私は産業医としてメンタルに関わるようになりましたが、
学会では産業精神に関わるシンポジウムも参加者が多く、
精神科医の産業保健への関心の高さを実感しました。

企業で主に問題になっているのは、気分障害、中でもうつ病うつ状態)です。
シンポジウムでは、元精神科医で現在産業保健を専門にしていらっしゃる産業医大の廣尚典先生とその他の精神科医で企業の産業医の経験の長い先生方が、産業医精神科医の連携、労働関係法律などについて発表していらっしゃいました。

その中で、廣先生は「産業医精神科医であるべきか」という問題提起をしていらっしゃいました。
先生のご意見は、最近の企業メンタルヘルスの対策は、精神科という専門性よりも産業医としての専門性が高いものが多いという話。
私自身、産業医や保健所の公衆衛生の仕事をするなかで精神科の必要性を痛感し精神科に身をおくようになったのですが、実際の臨床と産業医としてメンタルの従業員の面談を行うのは、異なります。
また、企業のメンタルヘルス対策ともなると、集団を扱うことになるので、患者個人を対象とする精神科だけの知識では難しいと感じることは多いのです。
しかし、企業が産業医を紹介してほしいという場合は、「精神科医募集」というものが最近はほとんどです。大抵の企業の産業医仕事は従業員の治療ではなく調整であることが多いのですが・・・。

本年4月に厚生労働大臣の意向で、うつ病を問診などでスクリーニングできないか、という話がありました。
つまり、疾病の早期発見という2次予防を目的にした対策をすることになりました。
私は複数の企業で産業医をさせていただいてますが、ある企業では疲労度チェックシートを利用したマススクリーニングを試みております。
しかし、多忙、上司に見られると困る、というような理由で回収率が低いのが現状です。しかしながら、チェックシートによりリスクが高いと思われる者を面談することにより、メンタル不調の早期発見につながったことは多々あります。
チェックシートでスクリーニングするということは精神科医にとって違和感があるかもしれません。「本人に会って話をきかないで判断できるわけない」という声も聞こえてきそうです。
しかし、スクリーニングとしては有用かと思います。
ただ、企業健診の場で医師が問診を行えるようになればさらに有効でしょう。
また、1次予防、つまり、病気にならないための活動も大切です。つまり、社員への健康教育などが挙げられるでしょう。

そして、早期発見のためには、管理職の教育も重要なファクターだと思います。
数社で管理職を対象に勉強会をさせていただきました。
管理職がメンタル不調への知識や誤解があり、部下のメンタル不調と向き合いながら自身がストレスを抱え込んでいることも多々あります。
そのような話を管理職研修として話し合うことで経験の共有ができる良い機会となりました。
以上のように、産業医というのは臨床医とは異なる視点で活動していかなければならないことが増えてきたということを実感してます。
産業医という仕事は、以前のように名義貸しだとか、月一回職場巡視と称して挨拶してお茶を飲んで帰ってくるというようなレベルの仕事ではなくなってきてます。
私自身の意見としては、産業医精神科医でもいいと思いますが、産業医として活動するためには集団をみるためのスキルを身につけ、また従業員には主治医がいるのでそのバランスをとりながら連携をとることを主眼にして現場に立てばいいのかと思ってます。