日本の医療は多売、分業制

今日は、最近感じていることを書いてみいます。
医学部を卒業して10年ちょっとになるとマイナー科と言われる眼科、皮膚科、耳鼻科などの科では、そろそろ開業しようか、と思い始めます。内科では、その時期がもう少しあとにずれるでしょうか。

そこで、医師という「臨床プレイヤー」が開業することにより「オーナー」としていろいろ考えるようになるのです。とにかく、最初は場所を探し、借金をするのですから真剣です。
1日何人くれば採算ラインか、など話題になります。
「○○さんは、開業1年で1日50人だって」とか
「3年やっても○○さんは1日20人しか来ないって」などなど。
仲間内なのでリアルな話をします。

最近つくづく感じるのが、日本の診療所は、「一人の開業医が診る患者数が多い」ということです。
アメリカやヨーロッパの個人開業医は、まるで法律事務所のように大きな机にドンと構えて、ゆったりと患者を診るイメージがあります。実際にフランスにいた頃に私はおそらく10件以上の診療所にかかったが、医師が大きなアンティークデスクの前でゆっくりと患者の話を聞くという映画そのままのスタイルでした。
そして驚いたのは、会計も医師と直接やり取りをする点。
ヨーロッパは小切手の文化が発達しているので、現金を扱わないことが多いのです。また、偽札の問題もあり、1万円相当の紙幣は嫌われるので使用を避けます。医師に小切手にサインをして終り。それを医師はまとめて銀行に持って行き換金する、という構造です。

さらに、日本とフランスで決定的に違うのが、支払いシステムです。日本の開業医は、患者さんからは自己負担分のみ徴収して、月末になると、1か月分の診療報酬の請求まとめて支払基金に請求します。これをレセプト請求と言います。一方、フランスでは10年ほど前から少しづつ変わりましたが、長い間、患者は全額を医師に支払い、自分で健康保険に支払い請求するというのが一般的でした。現在では、患者のICカード(Carte Vitale)により医師が支払請求をしますが、電子請求なので現在の日本のレセプト請求よりは煩雑ではないようです。

長々と書きましたが、何が言いたいかと言うと、明らかに日本で開業する方が、手間がかかる。つまり、スタッフの数が必要になるということです。人件費がかかるのです。毎回、患者さんからの支払いを管理する者、月末のレセプト計算するもの、また、大人数をみることになるので検査、投薬などを医師よりもコメディカルが代理で行うことが多いのです。
よって、フランスの開業医に比べて、利益の構造が、薄利多売になってしまうのだと思います。
また、フランス人に聞くと、手分けをして検査されても信用できない、出来る限り主治医が責任もってやってほしい、という意見が多いのです。つまり、フランスでは、患者のニーズもあり、1人の医師が多くの患者さんを診れないことになります。

その対極を行くのが日本だと思います。診療所で医師が患者さんを見る時間というのは混んでいるクリニックであれば実に2,3分で、特に話を聞かなくてはならないような場面でも十分に時間がとりにくいのが現状です
この件については、医師の知人が面白いことを言っていました。「日本の患者は医師につくのではなく、病院につくという習慣がある」と。確かに、○○病院の「○○先生」というより、「○○病院」に通院することを重視しますね。つまり、医師よりその病院への信頼が優先されるので、そこで流れ作業の結果、医師自身が行う内容が少ない、分業の「医療に慣れているのです。そのため病院の医師が転勤で異動になっても、大抵は問題なくそこに通うことになるのです。
ところで、知人のチャイニーズアメリカンに、「日本の医師はどうして看護師に権限をこんなに与えるのか?自分の権限を守らないのはどういう意味だ?」と聞かれました。確かに、資格としての価値を高めるには他の職種に権限を与えないという発想も可能です。しかし、実際働いてみるとわかりますが、日本の医療これは、そうしないと回らない、逆にいえばそれくらい多くの患者さんを診ないと採算ラインに達しない、ということなのです。

これは保険診療の特徴かというと、そうわけではありません。
例えば、自由診療で今流行のレーシック。
複数のレーシッククリニックの知人に話を聞きますと、今や両眼10万円以下の価格設定しているところも多いようです。10万円を切るレ―シックは世界的にも安値です。
いくら日本の医師の給与水準が先進国で低い方だと言えども途上国に比べたら人件費の高い日本で、どうしてこのように安い価格設定ができるのでしょうか。
その理由は、今までお話してきた「分業による効率化」にあります。
つまり、執刀医に手術当日まで会えない、とか、術後も別の医師が代理で診察するなどなど、全てベルトコンベアー式です。これは海外のレーシックでは想像し難いものです。
これが成り立つのは、先進国の患者意識では珍しいのですが、日本人は「分業医療」に慣れているからではないでしょうか。
ちなみに、レーシックの相場は数年前までは30-40万円くらいでした。現在でも、担当医制などの体制をとるレーシックはそのくらいはするようです。


では今日はこの辺で