医学博士 矢島新子 

以下のような記事を見つけました。

社会経済状況が低階層の人は、高階層に比べ、総死亡リスクが1.6倍に増大することが、英国公務員を対象とした「Whitehall II」調査の分析で明らかになった。特に、食事内容や運動など、健康に関する行動様式の違いが主な原因だという。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)疫学・国民健康研究センターのSilvia Stringhini氏らの調べで明らかになったもので、JAMA誌2010年3月24/31日合併号で発表された。
低階層の死亡リスクは、高階層に比べ、1.60倍だった(死亡率格差:1.94/1,000人・年)。

 ところで、先日、「がっちりアカデミー」という新番組に呼んでいただきましたが、そのときに「医学博士 矢島新子」という所属も何も書いていない肩書きだけで出演することになりました。言われてみれば、7人いる他のソントク先生も皆さん、川渕教授以外は肩書しかない!!
といわけで、私の肩書き「医学博士」について今日は書いてみます。
 私は医師でかつ医学博士ですが、医学博士の中には医師でないものもいます。厳密にいうと、医学部6年卒業して、医師国家試験に受かれば「医師」である。その後、大学院に行くなり、論文を数年かけて書くことにより、医学博士という「博士号」をいただけます。
 しかし、大学院は研究する場であり、他の学部、たとえば薬理学や物理学などの出身者もいらっしゃるので、そういう方が「医学博士」をとることがあるのです。つまり、「医学博士」は医師とは限らないということです。
 私は、大学院に行く前に、病院研修をしたり、大学院在学中にはロータリー財団奨学生として、パリ第一大学の大学院に留学しました。多少回り道しながら日本での大学院卒業を果たして、医学博士をいただきました。
国際的には医師は肩書としてM.D.、医学博士はPh.D.です。
日本で臨床をしている分には関係ないのですが、国際社会は、学歴社会であることが多く、Ph.D.があった方が有利なことが多いと言われてます。 
 最近は、大学の附属病院で女性外来を担当しながら、数社でメンタルを中心とした産業医をしています。そのため、患者さん個人の診察がメインですので、日常生活をこなすのに精いっぱい。この数年は社会医学系の論文をゆっくりみる機会がありませんでした。
 しかし、今回「がっちりアカデミー」で、ご一緒させていただいた母校の東京医科歯科大学教授の川渕教授のお話を聞きながら、データを読む楽しさを思い出して、目についたのが上の論文です。懐かしい!!

というのは、大学院時代は、社会経済状態と健康、そして健康に関する行動変容、ヘルスリテラシーについて研究しておりました。
 そして医療経済を勉強すべくパリに引越しました。そこで知ったのはフランスでは、健康格差が当り前という感覚が市民にも根付いていることです。米国も移民が多いため人種間の健康状態が異なるのは研究する際には考慮するのは当たり前です。しかし、私が驚いたのは、「ルモンド紙」というごく普通の新聞の第一面に「部長と平社員、ホワイトカラーとブルーカラーの心血管リスクがこれだけ違う!」などという記事が掲載されるのです。
今回の上の記事もINSERMというフランスの国立の研究所が出したものです。ここでの注目は、社会経済状態が違うと健康状態異なるのは、「食事内容や運動など、健康に関する行動様式の違いが主な原因」だということではないでしょうか。つまり、健康教育をすることで社会経済状態が悪くても健康的になることができるということです。
 日本でも「健康格差」ということが、語られてますが、治療へのアクセスについて語られることが多く、また、健康格差を解消するための予防、健康増進についてはまだまだ遅れている気がします。
 ただ、産業医としては、課長と平社員の死亡率が違うなどと考えながらお仕事はもちろんしませんが、それを頭の隅に入れておくことも大切かもしれません。最近は正社員か派遣かで、保険や収入などもかなり違うのですから、低収入でもリーズナブルに健康管理する方法を教えてあげるのもいいのでしょう。
 今は景気の悪化、産業構造の変化に伴いニートやフリーターなどで生計を立てる若者が多くなりました。そのような人たちが健康難民にならないよう、メディアも含め、いい健康教育ができたらいいな、と願う今日この頃です。
 何はともあれ「がっちりアカデミー」をご参考に。
今日はこの辺で。